業務効率化・DX

「作ったけど使われない」は、国の手順書が想定している事態です

業務ツールの相談で、いちばん気まずい後日談がこれです。

「去年入れたのですが、いつの間にか誰も使わなくなりまして」。

作った側にも、使う側にも、はっきりした落ち度が見当たらない。 だから原因の話にならず、「うちには合わなかった」で終わります。 そして次の1本にも手が出なくなります。

ただ、これは珍しい失敗ではありません。 国は同じ失敗を公式に認めていて、防ぐための手順を文書にしています。

結論

「使われない」は、作った後の努力が足りなかったから起きるのではありません。 作る前に決めていない項目が、そのまま後になって表に出てくるのだと考えてください。

デジタル庁と総務省の文書を突き合わせると、決めておくべきものは次の4つに集約できます。

  1. 何を測るか。 指標の名前だけでなく、誰がどうやってどれくらいの頻度で拾うかまで
  2. 手作業で残す範囲。 どこまでを機械にやらせ、どこからを人がやるのか
  3. 引き継ぐ人。 異動・退職のあとに、直せる人が誰もいなくならないか
  4. やめる条件。 効果がどこまで下がったら、廃止や作り直しを検討するのか

この4つは筆者が考えたものではありません。すべて、国の文書に工程として書かれています。 以下、どこにどう書かれているかを原文で示します。

そして、使われないことは気分の問題ではありません。 後半で、実証事業の実績値に架空の単価と費用(時間3,000円・年間100万円)を置いて計算します。 その前提のもとでは、使われた割合が4割を切った時点で、費用に換算した効果の符号が反転します。 分岐点そのものは費用の水準で動くので、数字はご自分のものに置き換えて読んでください。

「年間利用件数0件」は、国が自分で書いた言葉です

デジタル庁の「情報システムの整備及び管理の基本的な方針」(令和3年12月24日 デジタル大臣決定)は、 冒頭近くでこう書いています。

制度や行政手続の存在を前提とし、そのデジタル化自体が目的化すると、本来目指している 「利用者の利便性向上」が二の次とされてしまうおそれがある。我が国においても、過去に、 国の全行政手続のオンライン化が目的化したことで、そもそも年間利用件数が0件の手続の オンライン化や費用対効果の見合わない情報システムの整備を行い、結局、利用者の利便性向上や 行政の効率化という成果が十分得られなかった。

「年間利用件数が0件」。これは批判者の言葉ではなく、国が自分の文書に書いた反省です。

同じ方針は、この反省を受けて「サービス設計12箇条」を示しています。 そのうち、いま扱っている話に直接効くのは第2条と第12条です。

第2条 事実を詳細に把握する  実態の十分な分析を伴わない思い込みや仮説に基づいてサービスを設計するのではなく、 現場では何が起きているのか、事実に基づいて細かな粒度で一つ一つ徹底的に実態を把握し、 課題の可視化と因果関係の整理を行った上でサービスの検討に反映する。データに基づく 定量的な分析も重要である。

第12 条 情報システムではなくサービスを作る  サービスによって利用者が得る便益を第一に考え、実現手段である情報システム化に固執しない。 全てを情報システムで実現するのではなく、必要に応じて人手によるサービス等を組み合わせる ことによって、最良のサービスを利用者に提供することが目的である。

同じ12箇条は、デジタル庁の「デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン」(DS-100)にも掲げられています。 このガイドラインは2026年(令和8年)6月12日にデジタル社会推進会議幹事会が決定したもので、 位置づけは Normative、つまり遵守する内容を定めたドキュメントです。

ただし、標準ガイドラインが載せているのは12箇条の見出しだけで、本文は 「(「情報システムの整備及び管理の基本的な方針」参照)」として方針に送っています。 上に引いた第2条と第12条の本文は、方針にしか載っていません。

その見出しを12本とも並べて読むと、第6条の表記だけが違います。方針は 「デジタル技術を活用し、サービスの価値を高める」、標準ガイドラインは 「デジタル技術を徹底的に活用する」です。第2条「事実を詳細に把握する」と 第12条「情報システムではなくサービスを作る」は、見出しはどちらも同じです。

使われなくなった実例は、3つの型で記録されている

より生々しいのは総務省の側です。 「自治体におけるRPA導入ガイドブック」(令和7年7月)には、次のコラムがあります。

RPAは定型的で繰り返し実行される業務に適用されることが多く、中には通年や例年実施される 業務ではなく一時的に大量に処理が必要になった際に適用される場合もあります。そうした業務の 完了後にRPAの導入を取りやめることは目的を達成したためであり特に問題ありません。 問題となるのは、意図せずRPAの導入を取りやめた例です。総務省「地方自治体におけるAI・RPA 実証実験・導入状況等調査」の調査結果では次のような事例がありました。 ① RPAで自動化していた処理が基幹系システムに実装されたため、導入して数年で当該RPAが 不要となり、費用対効果が悪いものとなってしまった。 ② RPAを導入した業務は制度改正が頻発しており、シナリオの修正が追い付かず利用をやめてしまった。 ③ RPAを利用していた職員の異動後、後任の担当者に運用が引き継がれずRPAの利用をやめてしまった。 もしくはシナリオのメンテナンスができなくなりRPAの利用を中止した。

読むべき箇所は2つあります。

まず、「やめた」がすべて失敗ではないと最初に断っていることです。 一時的な大量処理のために作ったものを、処理が終わったからやめる。 これは目的を達成したのであって、問題ではないと書かれています。 自分の組織で止まったツールを数えるときは、まずここで2つに分けてください。

もう1つは、意図せず止まった3つの型が、いずれも作った後の使い方の話ではないことです。 ①は対象業務の選び方、②も対象業務の選び方、③は保守体制の作り方です。 総務省自身、続けてこう書いています。

制度改正やシステム改修など見通しが立たないものもあるため難しい面はありますが、 制度改正やシステム改修の予定を見越して導入対象業務を選定できればRPAを利用した効率的な 事務処理を継続できたかもしれません。職員の異動に伴う問題については、RPAの利用を含めた 作業手順の引継ぎが必要であるほか、特定の職員しかメンテナンスできない属人化された状況を 解消するため、全庁的な保守体制の整備や、必要に応じて事業者への保守作業依頼を検討して おくことが望ましいです。

選定と体制。使われなくなった原因として挙がっているのは、この2つです。

決めごと① 何を測るかを、作る前に決める

標準ガイドラインは、情報システムの要件を詰める前の「サービス・業務企画」の段階で、 8つの事項を業務要件として定義せよとしています。その5番目がこれです。

  1. 管理すべき指標 業務の運営上捕捉すべき指標項目、把握手順・手法・頻度 等

指標の名前だけではありません。把握手順・手法・頻度まで、作る前に決めろと書いてあります。 誰が、どこから、どれくらいの間隔で拾うのか。ここが決まっていないと、 半年後に「使われていますか」と聞かれたときに答えられません。

運用に入った後についても、同じガイドラインがこう書いています。

  1. モニタリングの実施及び分析 業務実施部門及びPJMOは、業務の運営中に、定期的に管理すべき指標の実績値を収集し、 把握するものとする。その上で、管理すべき指標等を活用し、定期的に業務の実態を分析する ものとする。

測る仕組みがないまま作られたツールは、使われなくなったことにさえ誰も気づきません。 気づくのは、更新の請求書が来たときです。

「効果が分からない」は、実際に上位の課題になっている

総務省は平成30年度から毎年、全国1,788の都道府県・市区町村にAIとRPAの導入状況を調査しています。 最新は令和7年度調査で、令和7年10月31日時点の状況を調べ、1,788団体すべてから回答があったものです (公表は令和8年4月24日)。

このうち「AIの導入に向けた課題」の集計は、こうなっています。

順位課題回答数
1取り組むための人材がいない又は不足している826件
2取り組むためのコストが高額であり予算を獲得するのが難しい642件
3導入効果が不明571件

資料の本文は「『取り組むための人材がいない又は不足している』の回答が826件で最も多く、 『取り組むためのコストが高額であり予算を獲得するのが難しい』(642件)、『導入効果が不明』(571件) の順に多かった」としています。

この設問は「AIの導入に向けた課題」です。資料の注記は「全団体を対象に調査し、回答があった各自治体からの 複数回答(3つ以内で複数回答可)をとりまとめたもの」としており、すでに導入した団体も答えています。 導入済みの団体を含めたうえで、3番目に多い障害が「効果が分からない」であるということです。

しかも、この項目は減っていません。同じ資料は「『導入効果が不明』、『どのような業務や分野で活用できるかが 不明』、『AIの技術を理解することが難しい』、『情報の収集・活用等に関する個人情報保護等の制約』が 令和6年度の回答数を上回っている」としています。導入が進んだ分だけ効果が見えるようになる、という 向きにはなっていないということです。

言い換えると、多くの組織で効果の測り方が最初から決まっていないということになります。

測り方の式は、公開されている

総務省のRPA導入ガイドブックは、効果指標の計算式を表で示しています。主なものは次のとおりです。

効果指標計算式
年間削減時間(現在の年間業務時間)-(RPA導入後の年間業務時間)
業務時間削減率(年間削減時間)÷(現在の年間業務時間)
年間削減時間のコスト換算効果(理論値)(年間削減時間)×(人件費単価)-(RPAのコスト)
過誤の減少件数(現在の年間過誤件数)-(RPA導入後の年間過誤件数)

同じ節には、見積りのときに落としやすい点も書かれています。

この時、自動化により短縮される時間だけに注目せず、RPAの処理前後に行う準備や確認などの 新たな作業の時間もしっかりと見積もり、その上で業務時間削減の効果があることを確認する 必要があります。

機械に渡す前の準備と、返ってきた後の確認。ここを0分で見積もると、机上では効果が出て、 現場では出ません。

使われた割合が下がると、効果は消えるが費用は残る

ここまでは制度の話でした。金額で見ると、もっとはっきりします。

総務省のAI活用・導入ガイドブックには、実証事業の実績値が載っています。 令和2年度の自治体AI共同開発推進事業で、住民税の賦課修正業務にAIを使った練馬区と中央区 (資料の表記では「練馬区グループ」)の例です。測ったのは「資料修正」と「賦課修正」の工程の 作業時間で、目標値は65%削減と置かれていました。

団体AIなしAIあり削減率(資料の表記)
練馬区1,450時間617時間57.4%削減
中央区1,300時間600時間53.8%削減

練馬区の差は833時間です。(1,450-617)÷1,450 を計算すると 57.4%(小数第2位を四捨五入)で、 資料の表記と一致します。

目標の65%に対し、実績は57.4%と53.8%です。資料は目標に届かなかった理由には触れていません。 代わりに、作業時間とは別の効果が記録されています。

ベテランの作業スピードを「1」とした時に、新任は何倍かかっているかを分析したところ、 新任職員の作業スピードが、ベテラン職員に近づく結果が得られました。

ただし、この図には注記が付いています。基準そのものが動いているという断りです。

※2 AIによる作業時間の短縮効果はベテラン職員にも見られ(練馬区では約29%)、 AIなしの「1」とAIありの「1」の時間は異なります

つまり「新任が2.6倍から1.2倍に縮まった」というのは、ベテランも速くなった上での倍率です。 新任の作業時間が半分以下になった、という読み方はできません。 注記を外して図だけを見ると、まさにそう読み違えます。

測っていたから、この2つが分かります。目標に届かなかったことも、見込んでいなかった効果も、 測っていなければ「だいぶ楽になった」で終わっていました。

さて、この833時間が何を測った数字なのかは、同じページの本文が限定しています。

AIがレコメンドする修正方法を併合チェックリスト上に印刷し、職員が不整合の原因を調査したり、 修正方法を考えたりする時間の削減効果を測定しました。

賦課修正業務の全件ではありません。 AIのレコメンドが効く部分、つまり不整合の原因を調べ、 修正方法を考えるのにかかっていた時間を測った数字です。

なお、同じページの図の下には「※1 練馬区において、発生件数の多いボリュームゾーンのエラーを対象に計測」 という注記もあります。ただし、この ※1 には参照記号が本文にも図にも打たれておらず、どの数字に 係るのかを資料から確定できません(※2 のほうは、ベテランの「1」の直下にマーカーがあります)。 ここでは根拠にしていません。

以下は、この「測った範囲の作業」のうち、どれだけを実際にツールに通したかを動かしてみます。 実務では、一部の職員だけが使う、難しい案件は手作業に戻す、といったことが起きるからです。

ここから先の人件費単価と費用は架空の例示です。時間あたり3,000円、ツールの年間費用を 1,000,000円と置きます。年間費用の桁は、総務省の調査のうちAIについての集計が 「年間運用費用は、いずれの分野においても2,000千円以下が大半となっている」と していることに合わせました。ここでいう「分野」は文字認識・チャットボット・音声認識という AIの機能の区分であって、業務の分野のことではありません。RPAの年間運用費用は同じ調査でも 分布が違い、こちらは「『1,000千円~2,500千円未満』の回答が最も多く、次いで『2,500千円~ 5,000千円未満』」とされています。この水準をそのまま当てはめないでください。 実際の数字はご自分のものに置き換えてください。

使われた割合年間の削減時間コスト換算効果
100%約833時間約150万円
80%約666時間約100万円
60%約500時間約50万円
50%約417時間約25万円
40%約333時間ほぼゼロ
30%約250時間約▲25万円
20%約167時間約▲50万円

計算はスクリプトで行い、出力を転記しています(scripts/calc/tsukatta-kedo-tsukawarenai.py)。 表の各行は、左の時間に3,000円を掛けて1,000,000円を引けば右の金額になります。

効果がゼロになる割合は 1,000,000 ÷ (833 × 3,000) で、約40% です。

この表の意味はひとつです。削減時間は使われた割合に比例して減るのに、費用は減らない。 だから、途中で符号が変わります。「半分くらいは使われているから、まあ元は取れている」という 感覚は、費用の水準によっては成り立ちません。

念のため書いておくと、これはAIやRPAに固有の性質ではありません。 年額で払うものや、保守を外に出しているものは、すべて同じ形になります。 社内で作った場合も、直す人の時間が費用です。

決めごと② 手作業で残す範囲を、先に決める

標準ガイドラインが業務要件として挙げる8項目には、こういうものもあります。

  1. 情報システム化の範囲 情報システムを用いて実施する業務の範囲及び情報システムを用いずに実施する業務の範囲

「用いずに実施する業務の範囲」も書け、という指示です。 どこまでを機械にやらせるかだけでなく、どこからを人がやると決めたのかを明示させています。

ここを決めずに作ると、何が起きるか。 例外が出るたびに「これも自動化できるはずだ」という話になり、直し続けることになります。 あるいは逆に、例外が出るたびに全体を手作業に戻してしまい、結局使われなくなります。

先ほどの第12条が「全てを情報システムで実現するのではなく、必要に応じて人手によるサービス等を 組み合わせる」と書いているのは、そういう意味です。 手で残すと決めた範囲は、負けではなく設計です。

決めごと③ 引き継ぐ人を決める

意図せず止まった3つの型のうち、自分の組織で最も起きやすいのが③でしょう。

総務省のRPA導入ガイドブックは、この点を次のように書いています。

開発時にRPAの仕様や操作方法を文書化していても、運用中の見直し内容が反映されないままでは、 担当職員の異動があった際に引継ぎが困難となります。修正途中のものも含めて複数世代のシナリオが 存在することになるため、バージョン管理も適切に行う必要があります。

手順書を作ったかどうかではありません。 直した内容がそこに戻っているかどうかです。 最初の1冊は、たいていの組織で作られます。運用の3か月目に入れた小さな例外処理が 書き足されていないことのほうが、はるかに多い。

標準ガイドラインも、教育・訓練の側から同じことを言っています。

特に、人事異動等により業務の運営に支障を来すおそれがないよう、組織的な教育・訓練の実施に 努めるものとする。

さらに、運営開始前の教育・訓練についてはこう書かれています。

その際、情報システムの操作、業務の運営手順等を一体として教育・訓練するよう留意するものとする。

操作と業務手順を一体にする。ボタンの押し方だけを教えると、想定外のことが起きたときに 止まります。止まると、人は元のやり方に戻ります。一度戻ると、まず帰ってきません。

決めごと④ やめる条件を決める

これがいちばん抜けます。そして、国の文書はどちらもはっきり書いています。

総務省のRPA導入ガイドブックは、管理台帳で何を管理し、どう使うかを表にしており、 「RPA(ロボット)の管理」の欄にこうあります。

RPAの利用状況や効果をガバナンス体制において集約し、利用促進等の改善策を検討する (効果が著しく低い場合は廃止の判断も)

標準ガイドラインの側は、改善を検討すべき事由を7つ挙げ、その筆頭がこれです。

[1] プロジェクト計画書に記載された目標の達成状況が著しく低い場合

そして、このうち「特に[1]又は[2]の場合には、PJMOは、その検討結果を速やかにPMOに報告する ものとする」とされています。どちらか一方に当たれば報告する、という書き方です。 時期についても指定があります。

さらに、PJMOは、少なくとも毎年度末においては、プロジェクト計画書に記載された目標の 達成状況を評価するとともに、残存するリスク及び課題について整理し、改善の必要性について 検討するものとする。

もう1か所、見落とされがちな規定があります。 標準ガイドラインの「サービス・業務企画」の章は、冒頭でこう書いています。

また、情報システムの更改又は機能改修を行うときは、利用者のニーズ及び利用状況等に応じて、 既存のサービス・業務の継続必要性についても判断するものとする。

更改のときに問うのは「どう作り直すか」ではなく、まず「続ける必要があるか」だということです。

やめる条件を先に決めておく意味は、事務的なものではありません。 条件が決まっていないと、使われていないことを誰も言い出せないのです。 言い出すことが、導入を決めた人への批判の形になりやすいからです。 「利用率が2年続けて3割を切ったら廃止を検討する」と最初に紙に書いてあれば、 それは誰かの批判ではなく、手続になります。

使ってもらう工夫も、工程に入っている

「作ったのだから使うはずだ」という前提は、国の文書には置かれていません。 利用を促進する施策そのものが、工程として並んでいます。

企画の段階では、こうです。

なお、企画の内容について、情報システムの利用を促進するために、有効な施策を検討するものとする。

運用の段階では、独立した項目になっています。

  1. 利用促進のための施策の実施及び分析 業務実施部門及びPJMOは、情報システムの利用を促進するため、有効な施策を実施するとともに、 業務実施担当者等に対し、情報システムを利用すると想定される利用者を誘導する施策の具体例に ついて教育・訓練するものとする。

「実施する」だけでなく「分析」まで項目名に入っています。 呼びかけて終わりではなく、呼びかけた結果どうなったかを見ろ、ということです。

総務省のRPA導入ガイドブックにも「4.5 利用の促進」という節があり、 庁内の他部署への横展開や、業務の標準化とシナリオの共用が挙げられています。

予算書と工数表に、この行がありますか。 無いなら、それはやらないと決めたのと同じです。

これは政府と自治体の文書です

ここまで引いてきた文書の適用対象を、はっきりさせておきます。

標準ガイドラインは、適用の範囲を次のように限っています。

標準ガイドラインは、政府情報システムに適用するものとする。

民間企業にも学校法人にも、そのまま適用されるものではありません。 総務省の2つのガイドブックは自治体向けで、こちらも民間を名宛人にしていません。

それでも読む価値があるのは、ここに並んでいるのが役所に固有の作法ではなく、 「何を決めておかないと使われなくなるか」の一覧だからです。 しかも、規模が小さい組織ほど厳しく効く項目があります。

決めごと規模が小さい組織で、特に効く理由
① 何を測るか測る担当がいないので、決めておかないと誰も拾わない
② 手作業で残す範囲例外を処理できる人が少なく、線を引かないと全部が人に戻る
③ 引き継ぐ人作った人が1人しかいない。退職・異動がそのまま停止になる
④ やめる条件決裁した人と使う人が同じか近いので、やめると言い出しにくい

学校法人の事務局や中小企業では、③が決定的です。 自治体なら「全庁的な保守体制の整備や、必要に応じて事業者への保守作業依頼」という逃げ道が ありますが、担当が1人の組織では、その1人が抜けた時点で止まります。

作った本人が読めば分かる、という状態は、引き継げる状態ではありません。

作る前に、この5つに答えておく

最後に、着手前の点検に使える形にしておきます。 答えが出ないまま進めても構いませんが、出ないこと自体は記録してください。

作る前に答える質問答えないまま進むと起きること
① この作業は、年に何回回ってくるか効果の見積りが立たず、後から費用対効果を問われたときに答えられない
② 使われているかを、誰がどうやって何か月ごとに見るか使われなくなったことに、更新の請求書が来るまで気づかない
③ 機械に渡す前の準備と、返ってきた後の確認に何分かかるか机上では効果が出て、現場では出ない
④ 手作業で残すのはどこからか例外が出るたびに全部が手作業に戻り、やがて使われなくなる
⑤ 作った人が抜けたら、誰が直すか異動や退職の日に止まり、そのまま再開されない

5つとも、国の文書に対応する項目があります。①は標準ガイドラインの業務要件 「2) 規模」の「単位(年、月、日、時間等)当たりの処理件数」と「3) 時期・時間」、 ②は同じく「5) 管理すべき指標」、④は「6) 情報システム化の範囲」です。 ③はRPA導入ガイドブックの「3.6.3 効果の算定」、⑤は同ガイドブックの引継ぎ・属人化の解消と、 標準ガイドラインの「人事異動等により業務の運営に支障を来すおそれがないよう」という 教育・訓練の規定に当たります。

まとめ

  • 「作ったけど使われない」は珍しい失敗ではありません。 デジタル庁の方針は「そもそも年間利用件数が0件の手続のオンライン化」を、 国自身の過去の失敗として書いています
  • 総務省のRPA導入ガイドブックは、使われなくなった実例を記録しています。 ただし目的を達成してやめたものと、意図せず止まったものは別です。まずここを分けてください
  • 意図せず止まった3つの型は、①②が対象業務の選び方、③が保守体制の作り方でした。 いずれも作った後の使い方ではなく、作る前と作るときの決めごとです
  • 作る前に決めるのは4つです。何を測るか(把握手順・手法・頻度まで)、 手作業で残す範囲、引き継ぐ人、やめる条件
  • 使われた割合が下がると削減時間は比例して減りますが、費用は減りません。 練馬区の実績(資料が「不整合の原因を調査したり、修正方法を考えたりする時間」を測った範囲で833時間)に 時間3,000円・年間費用1,000,000円という架空の前提を置くと、 使われた割合が約40%を下回った時点で、費用に換算した効果はマイナスになります
  • 使ってもらう工夫は、根性ではなく工程です。標準ガイドラインは企画と運用の両方に 利用促進の施策を置き、運用側では「実施及び分析」としています
  • ここで引いた文書は「政府情報システムに適用する」ものであり、民間や学校法人を 名宛人にしていません。ただし引き継ぐ人が1人しかいない組織ほど、項目は厳しく効きます

よくある質問

使われなくなったツールは、失敗したということですか。

必ずしもそうではありません。総務省「自治体におけるRPA導入ガイドブック」は、一時的に大量の処理が必要になった業務に使ったものについて「そうした業務の完了後にRPAの導入を取りやめることは目的を達成したためであり特に問題ありません。問題となるのは、意図せずRPAの導入を取りやめた例です」としています。まず、やめた理由が「役目を終えたから」なのか「続けられなくなったから」なのかを分けてください。分けないまま「うちは自動化に失敗した」と総括すると、次の1本にも手が出なくなります。

使われているかどうかは、どうやって測ればよいですか。

デジタル庁「デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン」は、作る前に定義する業務要件の1つとして「管理すべき指標」を挙げ、その中身を「業務の運営上捕捉すべき指標項目、把握手順・手法・頻度 等」としています。指標の名前だけでなく、誰がどうやってどれくらいの頻度で拾うかまで決めておけ、という書き方です。運用に入った後については「定期的に管理すべき指標の実績値を収集し、把握する」としています。測り方を決めずに作ったものは、使われているかどうかを後から言えません。

職員や社員が使ってくれない場合、どうすればよいですか。

「使ってもらう工夫」も、国の文書では工程の1つとして書かれています。標準ガイドラインは、企画の段階で「情報システムの利用を促進するために、有効な施策を検討するものとする」とし、運用の段階でも「情報システムの利用を促進するため、有効な施策を実施するとともに、業務実施担当者等に対し、情報システムを利用すると想定される利用者を誘導する施策の具体例について教育・訓練するものとする」としています。作った後の呼びかけではなく、予算と工数を取る対象として最初から数えておいてください。

担当者が異動したら止まってしまいました。防ぎようはありましたか。

あります。総務省のRPA導入ガイドブックは、この型を意図せぬ取りやめの事例として記録したうえで「開発時にRPAの仕様や操作方法を文書化していても、運用中の見直し内容が反映されないままでは、担当職員の異動があった際に引継ぎが困難となります」と書いています。最初に手順書を作ったかどうかではなく、直した内容がそこに戻っているかどうかが分かれ目です。標準ガイドラインも、継続的な教育・訓練について「特に、人事異動等により業務の運営に支障を来すおそれがないよう、組織的な教育・訓練の実施に努める」としています。

これは国や自治体の文書ですが、民間企業でも同じように考えてよいですか。

文書そのものは民間企業に適用されません。標準ガイドラインは「標準ガイドラインは、政府情報システムに適用するものとする」と適用対象を限っており、総務省のガイドブックは自治体向けです。ただし、そこに並んでいるのは「何を決めておかないと使われなくなるか」であって、役所に固有の話ではありません。引き継ぐ人が1人しかいない、制度改正で毎年作り直しになる、といった事情はむしろ中小企業や学校法人の事務局のほうが厳しく効きます。書かれている項目を、自分の組織の言葉に置き換えて使ってください。

やめる条件まで先に決めておくのは、後ろ向きではありませんか。

むしろ逆で、国の文書はどちらもやめる判断を工程に組み込んでいます。総務省のRPA導入ガイドブックは管理台帳の活用方法として「RPAの利用状況や効果をガバナンス体制において集約し、利用促進等の改善策を検討する(効果が著しく低い場合は廃止の判断も)」と書いています。標準ガイドラインも「プロジェクト計画書に記載された目標の達成状況が著しく低い場合」を改善を検討すべき事由の筆頭に挙げ、「少なくとも毎年度末においては、プロジェクト計画書に記載された目標の達成状況を評価する」としています。やめる条件が先に決まっていないと、使われていないことを誰も言い出せません。

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